桑島さんのコラムが、またもや入選しました

(某A新聞社のサイトにある「USAまずいもの大全」に掲載されたものです。今回は七面鳥。さもありなん…)

憧れのサンクスギビングディナー

 今年もまた、サンクスギビングがやってくる。

 10数年前に、サンクスギビングディナーに招待された。ドアを開けるとぷーンといい匂いが漂ってきた。テーブルの上には、焼きたての大きな七面鳥がのっている。

 小さい頃絵本で読んだ「マッチ売りの少女」。少女がマッチをすると、炎のなかに浮かんできた焼きたての湯気を立てた七面鳥。あの憧れの七面鳥が目の前にあるではありませんか。
 
 「あー、あのリッチな夢の七面鳥が食べられる」。私は、マッチ売りの少女がまるで焼肉食べ放題の店に突入したように、切り取られた七面鳥の大きな塊にナイフを入れました。

 落ちそうになる涎をこらえながら、ブスッとフォークで突き刺して、おもむろに口に運ぶ。私の頭の中には、とろけそうに柔らかいお肉からほとばしる肉汁、そんな夢の世界がマッチの炎の中に広がるのでした。

 一切れ口に入れる。

 「ぐぇ。なんだこれは・・・」

 こんなはずでは・・・。

 「よし、もう一切れ」

 噛めば噛むほどぱさぱさな肉片。一緒に食べたラズベリージャムの甘さだけが口の中に広がる。ばさばさ過ぎて飲み込むこともできない。近くにあったアップルサイダーで流し込む。まるで、一週間ほど冷蔵庫に置かれ、忘れ去られて干からびたケーキのスポンジを食べているような感じ。舌に残る味は、ただ付け合せのラズベリージャムの味だけ。

 「そうだ きっとこのスタッフィン(詰め物)と一緒に食べないからいけないんだ」と、今度はスタッフィンと一緒に・・・。「うっ。なんだこれは。これは食べ物じゃない」

 ほんわかと湯気を立てていたスタッフィンは、パンの中に木の実、フルーツなどを混ぜ込み、間違って水の分量を倍にして焚いた混ぜご飯のような、七面鳥の味を上回る素敵な夢の味だったのです。

 まだ口の中に残る、甘いぱさぱさの乾ききった肉片をのどに押し込もうと健闘しながら、「マッチ売りの少女は素敵な夢だけを持って天国に行けてよかったね」とつくづく思うのでした。

匿名希望/ワシントン州在住

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